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2002年9月12日
研究発表を行いました。

 これから「碓氷の技術遺産」に関する現在までの研究の概要について発表を行います。
 具体的な内容は、大きく分けて2つあります。
 1つ目は、「白石工業株式会社・碓氷第1工場 水力発電施設」です。
 もう1つは、「信越線 碓氷峠鉄道施設」です。

 はじめに白石工業・碓氷第1工場 水力発電施設について、これまでに行ってきた調査を発表します。
 西中学校の北側に隣接する白石工業・碓氷第1工場には、現在は使われていませんが、水力発電施設があり、工場で使うための電気や動力をつくりだしていました。
 ここに水力発電施設があることがわかったのは、工場に「水圧鉄管」を見つけたことがきっかけです。工場の方に伺ってみると、確かに水力発電を行っていたということがわかりました。下仁田町にある白石工業・白艶華(はくえんか)工場から、この水力発電施設について詳しい方がお越し下さって、この水力発電施設の見学を行いました。
 まず、「水圧鉄管」を紹介いたします。この鉄管の直径は約480mmで、長さは約50mあります。「リベット接合」でつくられています。現在ではこうした部分はすべて「溶接」でつくられていて、ほとんどこうした「リベット接合」のものは見ることができない貴重なものです。前橋市にある群馬県庁の近くの利根川に架かる「群馬大橋」はリベット接合でつくられているので見たことがある人もいると思います。
 次に水力発電を行うために機器類について紹介します。こうした機器類は工場の半地下室に設置されていました。水圧鉄管で落下してきた水をノズルで絞られて速度と勢いが上げられて、水車のバケットなどに当てられて水車が回されます。この水車ですが、「水力タービン」の「フランシス水車」と「ペルトン水車」が使われています。
 タービンは水車として分類されていますが、皆さんが良く知っている水車小屋などで使われている水車は、水が重力によって落ちていくのを利用して動力を得ています。ところがタービンは、水がジェット噴射されたときの速度と質量によって生じる運動エネルギーを利用して動力を得ています。水力発電用のフランシス水車は、ケーシングの中に入っていて、このフランシス水車の回転軸が発電機につながっていて発電するようになっています。ペルトン水車のほうは、水の噴射がバケットに当てられて回転し、その回転運動がベルト車によって伝えられ、工場内の動力として直接使われるようになっています。フランシス水車のケーシングには「電業社水車製造所」とあり、発電機には「東京芝浦電気」とありました。どちらも現在の「電業社」「東芝」のかつての会社名です。これらの水力発電施設は昭和30年代のもので、水力発電施設としては1世代前のものとして技術遺産の視点から見ても貴重なものと言えます。
 なぜ、ここに水力発電施設をもった工場がつくられたのでしょうか。
 白石工業は日本での炭酸カルシウム工業のパイオニアとして非常に有名な会社で、本社は三重県桑名市にあります。炭酸カルシウムは、ゴム、プラスチック、紙、塗料、印刷インキなどの化学工業や、食品、医薬品工業に欠くことができない原材料で、そのままの形態を残すことがほとんどないので世間にはあまり知られていませんが、加工産業の原材料として、あらゆる分野に広く利用されています。良質の炭酸カルシウムを探して、日本全国を調査したところ、群馬県下仁田町で産出することがわかりました。
 現在でも下仁田町には、「白石工業・白艶華(はくえんか)工場」という有名な工場があります。白艶華(はくえんか)というのは、高純度で微細な炭酸カルシウムの商品名です。この炭酸カルシウムは、タイヤメーカーのダンロップ社から指定されたほどの高品質で、日本でのシェアも1位でした。
 この炭酸カルシウムを精製する技術を使って、工業原料のベントナイトを製造するために、この碓氷第1工場がつくられました。ベントナイトは、わたしたちの地域からの産出量は日本で有数のものでした。ベントナイトも炭酸カルシウムと同じようにさまざまな工業製品の原材料となるものです。その後、この工場では、ベントナイトからつくられるオルベンの専門工場にもなりました。オルベンは塗料や印刷インキに配合される原材料です。

 白石工業・白艶華(はくえんか)工場の新井課長さんにお借りした、ダイヤモンド社刊の「白石工業〜ミクロの世界へ挑む」(昭和45年)によると、白石工業の創業者である白石恒二氏は、若いときに苦学して電気工学を学び、その後、会社を創業し、工場をつくるときに、自分の工場で使う電気を水力発電によってまかなうという基本的な構想を持っていました。そのため、下仁田町にある白艶華工場にも同じような水力発電施設があり、これをモデルにして碓氷第1工場がつくられました。
 この碓氷第1工場の水力発電施設は、旧・坂本宿の頃から現在まで流れている用水の水を使っていました。のちに電力会社からの送電も整備され、採算面から使われなくなったようです。近くで産出するベントナイトと用水を見事に組み合わせてつくられたユニークな水力発電施設といえます。なお、現在この工場では、アメリカ合衆国から輸入した露天掘りによるベントナイトを精製しています。
 今後も、この碓氷第1工場の水力発電施設について調査を行い、その歴史的な意味や技術遺産としての評価を行っていきたいと考えています。

次に、信越線碓氷峠鉄道施設について報告します。
 皆さんもご存じのように、信越線の碓氷峠鉄道施設は、文化庁による国の重要文化財に指定されています。「近代化遺産」という言い方もされています。
 この碓氷峠に残されている、さまざまな技術遺産について現在、調査を行っています。この調査を通じて、身近なところにある貴重な技術遺産の価値を明らかにしていきたいと考えています。
 これまで、現地調査をたくさん行ってきました。橋梁(きょうりょう)、トンネルをはじめとして、碓氷峠鉄道文化むらの中に保存されている旧・横川機関区検修庫や工作機械、車両検査修理用機器、鉄道車両、そして横川火力発電所と貯水池、丸山変電所、旧・熊ノ平駅と熊ノ平変電所、旧・軽井沢駅舎記念館など現地へ行って自分たちの目で確かめてきました。また、調査をもとにして碓氷峠の橋梁全てを1/150の模型として復元しました。今後は、碓氷第3橋梁と丸山変電所の学術模型の製作に取りかかろうとしているところです。そのために現在は、煉瓦建造物について基本的な学習をしています。


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