ものづくりを支援する「失敗データベース」
最終更新日 2002/02/03



概要
 ものづくりにおいて、失敗やつまづきはつきものであり、生徒がその失敗から学ぶことは大切なことである。学校の授業においても、「失敗というマイナス面」をもっと積極的にプラス面として活用できないだろうかと考えた。
 ところが、失敗作品は学校に残されていることが少ないため、生徒の前に提示されることも稀である。従って、どの部分がどうして失敗したのか考えることも少なくなってしまう。よい作品は学校に残されていることも多く、「この点が良く考えられている」、「ここがうまく工夫されている」などと、生徒の興味・関心や意欲を高めるためによく使われる。しかし、よくできた作品であっても、製作途中で失敗をしたために設計変更がなされていたり、割れたところをうまく直してあったりするものである。つまり、失敗のほとんどは、作品が完成したときに消されているのである。
 このように、技術・家庭科の授業中にはさまざまな失敗が起こるものの、その都度、教師は同じような失敗の対策や修復に追われててしまう。
 「失敗データベース」は、そういった失敗を有効なものと考え、データベース化することで、失敗をものづくりに生かそうとする試みである。
 失敗の記録さえできれば、

 ・どんな失敗が多いか
 ・失敗してどんな状況になっているか
 ・生徒は失敗の原因をどう考えているか
 ・生徒は失敗しないためにはどうすれば良かったと考えているのか

  といったことが明らかになるのではないだろうか。

方法
  1年生の木材加工の中で行った。
 生徒自身が失敗をしたと判断したら、携帯情報ツール「ザウルス」とデジタルカメラを用いて失敗の状況を生徒自らが記録し、教師がそのデータを集めて「失敗のデータベース」を作成した。
(1)記録内容
 携帯情報ツールに共通のフォーマットを作成し、次のことを入力した。

 a.失敗した部分のデジタル写真
 b.失敗部分の分類
 c.失敗の原因
 d.失敗をしないための友へのアドバイスなど。

(2)「失敗データベース」の作成
  (1)の記録をPCに転送し、データベースソフト「ファイルメーカー」を用いてデータベースとして閲覧できるようにした。
 登録されたデータを閲覧すれば、仲の良い友達が入力したデータが見つかったり、隣のクラスの子の失敗が見つかったりする。これらは生徒にとって大変身近なデータであり、自分と同じような失敗があれば大いに共感でき、失敗についての考察の深まりが期待できるように思う。また、何年か続けてデータ登録をすれば、先輩が1年のときにしていた失敗を見つけることもあるだろう。そして、データベースで見つけた友達や先輩からのアドバイスは、失敗についての教師の注意よりも効果が期待できるのではないだろうか。

実際の様子
 2ヶ月半ほどの間に約100件の失敗が集まったのは、携帯情報ツールの操作性が良かったのと、周囲の者は失敗と思わないのに自分で失敗と判断した生徒が多かったせいだと思われる。ここでの実践では、「失敗データベース」の内容を作業の途中で生徒に返すことができず、製作をほぼ終えてから、製作作業を振り返る形で「失敗データベース」を閲覧した。教師がページめくりの要領でデータを送っていくと、パソコンの画面を指さしたり、画面について近くの友達と話をする姿が見られた。
  「失敗データベース」は、まだ最初の形ができたばかりで、今回は十分な活用ができなかったが、失敗を記録していくことの有用性については十分な手応えがあった。

 

 ただ今、「失敗データベース」の実物を公開と実際に登録できる「失敗データベース」を検討中です。   

参考
 小菅治彦,「ものづくりを支援する『失敗データベース』開発と利用ー木材加工領域における実践をとおしてー」,
 東海北陸大会発表資料,1999年,


 投稿者:三重県 津市立西郊中学校 小菅治彦

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